鉄分

Iron

鉄分(Iron)のアイキャッチ画像
ミネラルエビデンス: S(最高レベル)

鉄分は、人体に必要な必須ミネラルの一つで、成人の体内には約3〜5g(男性では約4g、女性では約2.5g)が存在します。その約70%はヘモグロビン(赤血球中の酸素運搬タンパク質)に、約25%はフェリチン(貯蔵鉄)として肝臓、脾臓、骨髄に蓄えられ、残りはミオグロビン(筋肉中の酸素貯蔵タンパク質)や酵素の構成要素として機能しています。鉄の最も重要な役割は、ヘモグロビンの構成成分として全身に酸素を運搬することですが、エネルギー産生、DNA合成、免疫機能、神経伝達物質の合成など、多様な生理機能にも関与しています。鉄欠乏は世界で最も一般的な栄養欠乏症で、特に月経のある女性、妊婦、成長期の子供、ヴィーガンに多く見られます。日本人女性の約20%が鉄欠乏状態にあると推定されています。食事から摂取される鉄には、動物性食品に含まれるヘム鉄(吸収率15〜35%)と、植物性食品に含まれる非ヘム鉄(吸収率2〜20%)の2種類があり、吸収率に大きな差があります。

薬機法準拠コンテンツPharmaceutical Law Compliant

期待される効果

  • 1

    ヘモグロビンの構成成分として全身に酸素を供給し、鉄欠乏性貧血を予防・改善

  • 2

    エネルギー産生に不可欠で、疲労感、倦怠感を軽減し、活力と体力を向上

  • 3

    認知機能、集中力、記憶力、学習能力をサポート(特に子供と青少年で重要)

  • 4

    免疫細胞の機能を強化し、感染症への抵抗力を向上させる

  • 5

    妊娠中の胎児の脳発達と成長を促進し、早産や低出生体重児のリスクを低減

  • 6

    筋肉のミオグロビンに酸素を供給し、運動パフォーマンスと持久力を向上

  • 7

    体温調節機能をサポートし、冷え性を改善する効果

  • 8

    髪、皮膚、爪の健康を維持し、抜け毛や爪の脆さを予防

  • 9

    神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン)の合成に関与し、気分と精神状態を安定化

  • 10

    不安定下肢症候群(むずむず脚症候群)の症状を改善する効果

  • 11

    甲状腺機能をサポートし、甲状腺ホルモンの合成に関与

  • 12

    DNA合成と細胞分裂に必要で、成長期の子供の発達を促進

推奨摂取量

日本の基準(厚生労働省)

成人男性の推奨量:

  • 18〜64歳:7.5mg/日
  • 65歳以上:7.5mg/日

成人女性の推奨量:

  • 月経なし:6.5mg/日(閉経後)
  • 月経あり:10.5mg/日(付加量+4.0mg

妊婦:

  • 初期:+2.5mg9.0〜13.0mg/日)
  • 中期・後期:+15.0mg21.5〜25.5mg/日)※胎児と胎盤の成長のため大幅に増加

授乳婦:

  • +2.5mg9.0〜13.0mg/日)

耐容上限量:

  • 成人男性:50mg/日
  • 成人女性:40mg/日

年齢別推奨量

  • 生後6〜11ヶ月5.0mg/日
  • 1〜2歳:4.5mg/日
  • 3〜5歳:5.5mg/日
  • 6〜7歳:6.5mg/日
  • 8〜9歳:8.0mg/日
  • 10〜11歳:10.0mg/日(女子)、8.5mg/日(男子)
  • 12〜14歳:12.0mg/日(女子・月経あり)、10.0mg/日(男子)
  • 15〜17歳:10.5mg/日(女子・月経あり)、10.0mg/日(男子)

国際的な推奨量

米国推奨量(RDA):

  • 成人男性:8mg/日
  • 成人女性(月経あり):18mg/日
  • 成人女性(閉経後):8mg/日
  • 妊婦:27mg/日
  • 授乳婦:9mg/日

健康状態別の推奨量

鉄欠乏性貧血の治療

  • 100〜200mg/日の元素鉄(医師の指導下)
  • 通常3〜6ヶ月間の補充が必要
  • 貧血が改善しても、貯蔵鉄を回復させるため継続

鉄欠乏(貧血なし)

  • 30〜60mg/日の元素鉄
  • 3〜6ヶ月間の補充

月経過多の女性

  • 15〜30mg/日の追加補充

妊娠中

  • 27〜30mg/日(ほとんどの産前ビタミンに含まれる)
  • 貧血がある場合はさらに増量(医師の指導下)

ヴィーガン・ベジタリアン

  • 非ヘム鉄の吸収率が低いため、推奨量の1.8倍(約14〜19mg/日)

アスリート・激しい運動をする人

  • 10〜18mg/日(発汗と運動による損失の補償)

献血を頻繁にする人

  • 15〜30mg/日(鉄の損失を補充)

ヘム鉄 vs 非ヘム鉄

ヘム鉄(動物性食品)

  • 吸収率:15〜35%(高い)
  • 供給源:赤身肉、レバー、魚、鶏肉
  • 吸収は他の食品成分の影響を受けにくい
  • サプリメントとしても利用可能

非ヘム鉄(植物性食品)

  • 吸収率:2〜20%(低い)
  • 供給源:豆類、葉物野菜、穀物、ナッツ
  • 吸収促進因子(ビタミンC、肉類)と阻害因子(タンニン、フィチン酸、カルシウム)の影響を大きく受ける

効果的な摂取方法

吸収促進のコツ

  • ビタミンCと一緒に摂取(最重要)
  • 非ヘム鉄の吸収を3〜4倍に増加
  • 鉄サプリメントと一緒にオレンジジュース、レモン、ビタミンCサプリメント
  • 肉・魚・鶏肉と一緒に
  • ミートファクターにより非ヘム鉄の吸収が促進
  • 空腹時に摂取(サプリメントの場合)
  • 吸収率が最大化されるが、胃の不快感が生じやすい
  • 胃への刺激が強い場合は食後に変更
  • 分割摂取
  • 1日100mg以上摂取する場合は、朝夕2回に分割
  • 吸収率が向上し、副作用が軽減

吸収阻害因子を避ける

  • カルシウム:鉄サプリメントと4〜6時間間隔を空ける
  • お茶・コーヒー:タンニンが鉄吸収を阻害(食後1〜2時間は避ける)
  • 制酸剤・プロトンポンプ阻害薬:胃酸が減少し、非ヘム鉄の吸収が低下

サプリメントの形態

硫酸第一鉄(Ferrous Sulfate)

  • 元素鉄含有率:20%
  • 最も一般的で安価
  • 吸収率は良いが、胃腸への刺激が強い

フマル酸第一鉄(Ferrous Fumarate)

  • 元素鉄含有率:33%(最高)
  • 吸収率良好
  • やや高価

グルコン酸第一鉄(Ferrous Gluconate)

  • 元素鉄含有率:12%
  • 吸収率良好
  • 胃への刺激が比較的少ない

ヘム鉄サプリメント

  • 動物由来のヘム鉄
  • 吸収率が非常に高い(15〜35%
  • 胃への刺激が少ない
  • 高価

鉄ビスグリシン酸(Iron Bisglycinate/Chelated Iron)

  • キレート化された鉄
  • 吸収率が高く、胃への刺激が最も少ない
  • 便秘になりにくい
  • 高価だが、忍容性が高い(推奨)

副作用・注意事項

  • ⚠️

    最も一般的な副作用は便秘、吐き気、腹痛、下痢などの消化器症状(特に高用量や空腹時摂取)

  • ⚠️

    便の色が黒くなる(無害だが驚く人が多い)

  • ⚠️

    まれに胸やけ、胃の不快感、嘔吐

  • ⚠️

    過剰摂取(急性:20mg/kg以上、慢性:45mg/日以上の長期摂取)により、肝障害、心臓障害、内分泌障害のリスク

  • ⚠️

    ヘモクロマトーシス(遺伝性鉄過剰症)の患者では、臓器へのダメージが加速

  • ⚠️

    子供の誤飲による急性鉄中毒は生命を脅かす可能性があるため、子供の手の届かない場所に保管

  • ⚠️

    まれにアレルギー反応(発疹、かゆみ、呼吸困難)が報告されている

相互作用

  • ⚠️

    ビタミンC:非ヘム鉄の吸収を3〜4倍に増加させるため、併用が強く推奨されます(特に植物性食品やサプリメントからの鉄)

  • ⚠️

    カルシウム:鉄の吸収を50%以上阻害するため、鉄サプリメントとカルシウムサプリメント/乳製品の摂取は4〜6時間間隔を空ける

  • ⚠️

    亜鉛:相互に吸収を競合するため、高用量を同時摂取する場合は時間をずらすことを検討

  • ⚠️

    甲状腺ホルモン薬(レボチロキシン):鉄が吸収を阻害するため、最低2時間(できれば4時間以上)間隔を空ける

  • ⚠️

    抗生物質(テトラサイクリン系、キノロン系):相互に吸収を阻害するため、2〜4時間間隔を空ける

  • ⚠️

    ビスホスホネート系骨粗しょう症治療薬:鉄が吸収を阻害するため、最低2時間間隔を空ける

  • ⚠️

    プロトンポンプ阻害薬(PPI)・H2ブロッカー(制酸剤):胃酸の分泌を抑制し、非ヘム鉄の吸収を40〜50%低下させる

  • ⚠️

    タンニン(お茶、コーヒー、赤ワイン):鉄の吸収を50〜70%阻害するため、鉄サプリメント摂取の前後1〜2時間は避ける

  • ⚠️

    フィチン酸(全粒穀物、豆類、ナッツ):非ヘム鉄の吸収を阻害するが、ビタミンCとの併用で緩和可能

  • ⚠️

    ビタミンE:高用量の鉄(特に無機鉄)がビタミンEを酸化させる可能性があるため、摂取時間を8〜12時間ずらす

よくある質問

A

鉄サプリメントによる胃の不快感は非常に一般的な副作用で、多くの人が経験します。以下の対処法を試してみてください。

原因

鉄(特に無機鉄塩)は胃粘膜を刺激し、酸化ストレスを引き起こすことがあります。特に硫酸第一鉄は刺激が強い傾向にあります。

対処法

1. 食後に摂取する

空腹時の方が吸収率は高いですが、胃への刺激も強い
食後に摂取すると、吸収率は若干低下(約40〜50%)するが、胃への刺激が大幅に軽減
特に脂質やタンパク質を含む食事と一緒に

2. 用量を減らすまたは分割する

1日100mgを一度に摂取する代わりに、50mgを朝夕2回に分割
少量から開始し、徐々に増量(例:最初の週は25mg、次の週は50mg、その後100mg
体が徐々に適応します

3. 異なる形態の鉄に変更する

胃に優しい形態(推奨):

鉄ビスグリシン酸(キレート鉄):最も胃に優しく、便秘になりにくい。吸収率も良好。
ヘム鉄サプリメント:動物由来のヘム鉄は胃への刺激が少なく、吸収率も高い(15〜35%)。
グルコン酸第一鉄:硫酸第一鉄より刺激が少ない。

避けるべき形態:

硫酸第一鉄:最も刺激が強い(ただし安価で吸収率は良い)

4. ビタミンCと一緒に摂取するが、量を調整

ビタミンCは鉄の吸収を促進するため、鉄の用量を減らせる可能性
ただし、高用量のビタミンCも胃を刺激することがあるため、適度な量(100〜200mg)で

5. プロバイオティクス

一部の研究で、プロバイオティクスが鉄サプリメントの胃腸への副作用を軽減することが示されています

6. 液体または咀嚼タブレット

一部の人には、液体鉄や咀嚼タブレットの方が胃に優しい場合があります

7. 徐放性(タイムリリース)製剤

ゆっくりと放出されるため、胃への刺激が軽減される可能性
ただし、吸収率がやや低下する場合があります

8. 水を多く飲む

サプリメントをコップ一杯(240ml)の水と一緒に摂取
胃腸への刺激を軽減し、便秘も予防

9. 避けるべきもの

鉄サプリメント摂取時に以下を避けると、胃の不快感が軽減される可能性があります:

空腹時の摂取
カフェイン飲料(刺激を増強)
アルコール
辛い食べ物

それでも改善しない場合

1. 医師に相談

持続的な胃痛は、他の問題(胃潰瘍、胃炎など)の可能性
医師が静脈注射での鉄補充を提案する場合もあります

2. 静脈注射による鉄補充

経口鉄が耐えられない場合、医師の指導下で静脈注射での鉄補充が可能
胃腸への副作用がなく、鉄貯蔵を迅速に回復できます
重度の鉄欠乏性貧血や吸収不良疾患の患者に特に有効

3. 鉄欠乏の原因を調査

慢性的な出血(月経過多、消化管出血など)が原因の場合、根本的な治療が必要
吸収不良疾患(セリアック病、クローン病など)の可能性も

【食事からの鉄摂取を優先**

サプリメントに頼るだけでなく、鉄が豊富な食品を積極的に摂取することも重要です:

赤身肉、レバー、魚(ヘム鉄、吸収率高い)
豆類、緑黄色野菜、強化シリアル(非ヘム鉄、ビタミンCと一緒に)

食事からの鉄は、サプリメントよりも胃に優しく、過剰摂取のリスクも低いです。

重要な注意

激しい腹痛、血便、嘔吐、発熱などの症状がある場合は、直ちに医師に相談してください。これらは鉄サプリメントの一般的な副作用ではなく、他の疾患の可能性があります。

A

便秘は、鉄サプリメント(特に無機鉄塩)の最も一般的な副作用の一つです。多くの人が経験し、サプリメント中止の主な理由となっています。

原因

鉄が便秘を引き起こすメカニズムは完全には解明されていませんが、以下が考えられています:

腸管内で吸収されなかった鉄が、腸内細菌叢を変化させる
鉄が腸の運動性を低下させる
硫化水素の産生を減少させ、腸の蠕動運動を抑制

対処法

1. 鉄の形態を変更する(最も効果的)

便秘になりにくい形態:

鉄ビスグリシン酸(キレート鉄):最も便秘になりにくく、研究で確認されています。吸収率も良好。
ヘム鉄サプリメント:動物由来のヘム鉄は便秘のリスクが低い。
ポリサッカライド鉄複合体:便秘のリスクが低いとされています。

便秘になりやすい形態:

硫酸第一鉄:最も便秘を引き起こしやすい
フマル酸第一鉄

2. 用量を調整する

分割摂取1日100mgを一度に摂取する代わりに、50mgを朝夕2回に分割
低用量から開始25〜50mgから始め、数週間かけて徐々に増量し、体を適応させる
最小有効量:医師と相談し、症状を改善する最小限の用量を見つける

3. 食物繊維を増やす

水溶性食物繊維
オートミール、大麦
リンゴ、柑橘類
豆類
フラックスシード、チアシード
不溶性食物繊維
全粒穀物
ブロッコリー、キャベツ
ナッツ類
目標1日25〜35gの食物繊維

4. 水分を十分に摂取

1日最低8杯(2リットル)の水
鉄サプリメントをコップ一杯の水と一緒に摂取
食物繊維と水分の組み合わせが便秘解消に最も効果的

5. 適度な運動

定期的な運動(ウォーキング、ジョギング、ヨガなど)が腸の蠕動運動を促進
1日30分、週5回を目標に

6. プロバイオティクス

一部の研究で、プロバイオティクスが鉄サプリメントによる便秘を軽減することが示されています
ヨーグルト、ケフィア、キムチ、味噌、サプリメント

7. マグネシウムの併用

マグネシウムは自然な便秘薬として働きます(腸に水分を引き込む)
マグネシウムサプリメント:200〜400mg/日(就寝前)
マグネシウムが豊富な食品:ほうれん草、アーモンド、アボカド、ダークチョコレート
注意:マグネシウムは鉄の吸収を若干阻害する可能性があるため、摂取時間を数時間ずらすことも検討

8. ビタミンCの増量

ビタミンCは鉄の吸収を促進するため、鉄の用量を減らせる可能性
低用量の鉄+高用量のビタミンC(500mg)という組み合わせ
ビタミンCも適度に腸の動きを促進する可能性

9. 自然な緩下剤(必要に応じて)

プルーンジュース:自然な緩下作用、1日1カップ
フラックスシード:大さじ1〜2杯を水やヨーグルトに混ぜる
アロエベラジュース:適度な量(過剰摂取は下痢の原因)

10. 摂取タイミングの調整

就寝前に摂取すると、翌朝の排便を促す可能性があります(個人差あり)
試してみて、自分に合ったタイミングを見つけましょう

避けるべきこと

過度の乳製品:便秘を悪化させる可能性
加工食品:食物繊維が少ない
長期間の刺激性下剤:依存性があり、腸の自然な機能を低下させる可能性

それでも改善しない場合

1. 医師に相談

持続的な便秘は、他の問題の可能性
医師が鉄の形態や用量を調整、または静脈注射を提案する場合があります

2. 静脈注射による鉄補充

経口鉄の副作用(便秘、胃の不快感)が耐えられない場合の選択肢
胃腸への副作用がなく、鉄貯蔵を迅速に回復

3. 一時的な下剤の使用

医師の指導下で、短期間の穏やかな下剤(酸化マグネシウム、浸透圧性下剤など)
長期使用は避ける

【食事からの鉄摂取を優先**

高用量サプリメントに頼るだけでなく、食事から鉄を摂取することも重要です:

ヘム鉄(吸収率高く、副作用少ない):赤身肉、レバー、魚、鶏肉
非ヘム鉄(ビタミンCと一緒に):豆類、ほうれん草、小松菜、強化シリアル

食事からの鉄は、サプリメントよりも便秘のリスクが低いです。

まとめ

便秘を最小化する最善の戦略は:

1. 鉄ビスグリシン酸(キレート鉄)またはヘム鉄に変更

2. 用量を分割し、低用量から開始

3. 十分な水分(2リットル/日)と食物繊維(25〜35g/日)

4. 定期的な運動

5. プロバイオティクスとマグネシウムの併用を検討

これらの対策により、ほとんどの人で便秘が改善または解消されます。

A

鉄の吸収を最大化し、副作用を最小化するための最適な摂取タイミングは、個人の忍容性と生活スタイルによって異なります。

基本原則

空腹時摂取(吸収率最大)

起床時、朝食の1時間前または2時間後
吸収率が最も高い(約2〜3倍)
メリット:効率的な鉄補充
デメリット:胃の不快感、吐き気のリスクが高い
推奨対象:胃が丈夫で、副作用を経験しない人

食後摂取(副作用軽減)

食事の直後、または食事中
吸収率は低下(約40〜50%減少)するが、胃への刺激が大幅に軽減
メリット:副作用(吐き気、胃痛)の軽減
デメリット:吸収率の低下
推奨対象:胃が弱い人、副作用を経験する人

実用的には、多くの医師が食後摂取を推奨しています。吸収率は下がりますが、継続性(副作用で中止しない)の方が重要だからです。

時間帯別の推奨

朝(起床時または朝食後)

メリット:

飲み忘れが少ない
1日を通して鉄が利用可能
夜間の胃腸症状を避けられる

方法:

空腹時派:起床後すぐ、朝食の1時間前に摂取 + ビタミンC(オレンジジュース)
食後派:朝食直後に摂取

夕方/就寝前

メリット:

夜間に副作用(吐き気など)を寝過ごすことができる
夕食が1日で最も量が多い食事の場合が多く、食後摂取に適している

デメリット:

一部の人で睡眠が妨げられる可能性(まれ)
飲み忘れやすい

吸収を最大化するタイミングのコツ

1. ビタミンCと同時摂取(必須)

非ヘム鉄の吸収を3〜4倍に増加
方法:
オレンジジュース(200ml、約100mg ビタミンC)と一緒に
レモン水
ビタミンCサプリメント(100〜500mg
ビタミンCが豊富な食品(ピーマン、イチゴ、キウイなど)

2. 空腹時 + ビタミンC(最高の吸収率)

起床時、鉄サプリメント + 水 + ビタミンCサプリメントまたはオレンジジュース
1時間後に朝食
胃が耐えられる場合に限る

3. 肉・魚・鶏肉を含む食事の直後(食後派)

ミートファクターにより非ヘム鉄の吸収が促進
ビタミンCが豊富な野菜も一緒に

避けるべきタイミング(吸収阻害因子)

以下のものとは4〜6時間間隔を空ける:

1. カルシウム

乳製品、カルシウムサプリメント
鉄の吸収を50%以上阻害
例:鉄を朝食前、カルシウムを夕食後

2. お茶・コーヒー

タンニンが鉄吸収を50〜70%阻害
鉄摂取の前後1〜2時間は避ける
代わりに水、オレンジジュース、ハーブティー

3. 制酸剤・プロトンポンプ阻害薬(PPI)

胃酸が減少し、非ヘム鉄の吸収が40〜50%低下
可能な限り摂取時間をずらす

4. 全粒穀物・豆類(フィチン酸)

フィチン酸が非ヘム鉄の吸収を阻害
ビタミンCと一緒に摂取することで緩和可能

5. 亜鉛サプリメント

相互に吸収を競合
高用量を同時摂取する場合は時間をずらす

6. 甲状腺ホルモン薬・一部の抗生物質

相互作用があるため、2〜4時間間隔を空ける

実用的な摂取スケジュール例

例1:吸収率優先(胃が丈夫な人)

起床時(空腹時):鉄サプリメント + オレンジジュース(ビタミンC)
1時間後:朝食(お茶・コーヒー・乳製品なし)
昼食・夕食:通常の食事
夕食後:カルシウムサプリメント(必要な場合)

例2:副作用軽減優先(胃が弱い人)

朝食後:通常の朝食(お茶・コーヒー・乳製品を避ける)
朝食直後:鉄サプリメント + ビタミンCサプリメントまたはオレンジジュース
昼食・夕食:通常の食事
夕食後:カルシウムサプリメント(必要な場合)

例3:分割摂取(高用量の場合)

朝食後:鉄50mg + ビタミンC
夕食後:鉄50mg + ビタミンC
カルシウムは昼食後(鉄から最も離れた時間)

例4:甲状腺薬を服用している場合

起床時(空腹時):甲状腺ホルモン薬
1時間後:朝食
朝食2時間後または昼食後:鉄サプリメント + ビタミンC
夕食後:カルシウム(必要な場合)

特殊な状況

妊娠中

つわりがある場合:夕食後または就寝前(吐き気を寝過ごす
つわりがない場合:空腹時+ビタミンCで吸収率最大化

アスリート

運動前:鉄補充(エネルギー代謝サポート)
ただし、激しい運動直後は炎症反応により鉄の吸収が一時的に低下するため、数時間後に摂取

最も重要なポイント

1. 継続性が最重要

副作用で中止してしまっては意味がありません。自分が続けられるタイミングを選びましょう。

2. ビタミンCと併用

吸収率が劇的に向上します。

3. 阻害因子を避ける

特にお茶、コーヒー、カルシウムとの同時摂取を避ける。

4. 個人に合わせて調整

胃が丈夫→空腹時+ビタミンC(吸収率最大)

胃が弱い→食後+ビタミンC(副作用最小)

5. 医師の指示に従う

特定の健康状態や薬剤がある場合は、医師の推奨に従ってください。

結論

理想的には空腹時+ビタミンCが最も吸収率が高いですが、副作用がある場合は食後+ビタミンCが実用的です。最も重要なのは、毎日継続して摂取し、阻害因子(特にお茶、コーヒー、カルシウム)を避けることです。

A

鉄欠乏は段階的に進行し、初期には症状がないことも多いため、気づきにくい場合があります。以下の症状と検査方法で確認できます。

鉄欠乏の症状(段階別)

第1段階:鉄貯蔵の枯渇(無症状)

フェリチン低下(<30 ng/mL)
症状はまだない、または非常に軽微
血液検査でのみ検出可能

第2段階:鉄欠乏性赤血球造血(軽度の症状)

血清鉄低下、トランスフェリン飽和度低下
ヘモグロビンはまだ正常範囲
症状:
軽度の疲労感
集中力の低下
運動時の息切れ
冷え性

第3段階:鉄欠乏性貧血(明確な症状)

ヘモグロビン低下(男性<13 g/dL、女性<12 g/dL)
赤血球が小さく色が薄い(小球性低色素性貧血)
症状:
強い疲労感、倦怠感
息切れ、動悸
顔色の蒼白
めまい、立ちくらみ
頭痛
冷え性(手足の冷え)
免疫力の低下、頻繁な感染症
集中力低下、記憶力低下
情緒不安定、イライラ
爪が脆くなる、反り返る(スプーン爪)
髪の毛が抜けやすい
口角炎、舌炎
氷を食べたくなる(氷食症)
不安定下肢症候群(むずむず脚症候群)
運動パフォーマンスの低下

高リスクグループ

以下の人々は鉄欠乏のリスクが高いです:

1. 月経のある女性

特に月経過多(重い生理)の女性
毎月の出血により鉄が失われる

2. 妊婦

胎児と胎盤の成長により需要が増加
血液量が増加するため希釈性貧血も

3. 成長期の子供・青少年

急速な成長により需要が増加

4. ヴィーガン・ベジタリアン

非ヘム鉄(吸収率低い)のみの摂取
ヘム鉄(吸収率高い)を摂取しない

5. アスリート・激しい運動をする人

発汗、消化管出血、溶血により鉄が失われる

6. 頻繁に献血する人

1回の献血で約200〜250mgの鉄が失われる

7. 消化管疾患のある人

クローン病、セリアック病、潰瘍性大腸炎など
鉄の吸収不良や消化管出血

8. 胃切除術・バリアトリック手術を受けた人

鉄の吸収部位が減少

9. 慢性腎臓病患者

エリスロポエチン減少、透析による損失

10. 高齢者

食事量の減少、吸収率の低下、潜在的な出血

確定診断:血液検査

鉄欠乏を確定診断するには、血液検査が必要です。医師に相談し、以下の検査を受けてください:

1. 全血球計算(CBC)

ヘモグロビン
男性:<13 g/dL で貧血
女性:<12 g/dL で貧血
妊婦:<11 g/dL で貧血
平均赤血球容積(MCV):<80 fL で小球性(鉄欠乏の特徴)
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC):低下で低色素性

2. フェリチン(最も重要)

体内の鉄貯蔵量を反映
解釈:
<15 ng/mL:重度の鉄欠乏
15〜30 ng/mL:鉄欠乏
30〜50 ng/mL:鉄貯蔵が低い、補充を検討
50〜200 ng/mL:正常範囲
>200 ng/mL:鉄過剰または炎症
注意:フェリチンは急性期反応タンパク質で、炎症や感染症があると偽陽性(高値)になる可能性

3. 血清鉄

血液中の鉄濃度
鉄欠乏で低下(<50 μg/dL)
日内変動が大きいため、単独では診断に不十分

4. 総鉄結合能(TIBC)

トランスフェリン(鉄運搬タンパク質)が結合できる鉄の総量
鉄欠乏で上昇(>450 μg/dL)
体が鉄を求めている指標

5. トランスフェリン飽和度

血清鉄 ÷ TIBC × 100
鉄欠乏で低下(<16〜20%
20〜50%が正常範囲

6. 可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)

より新しい指標で、炎症の影響を受けにくい
鉄欠乏で上昇
通常検査には含まれないが、診断が困難な場合に有用

鉄欠乏性貧血の典型的な検査パターン

ヘモグロビン:低下
フェリチン:低下(<30 ng/mL)
血清鉄:低下
TIBC:上昇
トランスフェリン飽和度:低下(<16%
MCV:低下(小球性)
MCHC:低下(低色素性)

検査のタイミング

症状がある場合:すぐに検査
高リスクグループ:年1回の定期検査
鉄補充開始後:2〜3ヶ月後に再検査(効果を確認)
鉄補充完了後:3〜6ヶ月後に再検査(再発防止の確認)

鉄欠乏以外の貧血との鑑別

鉄欠乏性貧血以外にも、貧血の原因は多数あります:

ビタミンB12欠乏性貧血
葉酸欠乏性貧血
慢性疾患による貧血
溶血性貧血
再生不良性貧血

血液検査により、これらを鑑別診断できます。

自己チェック(参考)

以下の症状が複数ある場合、鉄欠乏の可能性があります(ただし確定診断には血液検査が必要):

□ 常に疲れている、倦怠感

□ 息切れ、特に運動時

□ 顔色が悪い、蒼白

□ めまい、立ちくらみ

□ 頭痛

□ 手足の冷え、冷え性

□ 集中力が続かない

□ イライラしやすい

□ 爪が脆い、反り返っている

□ 髪の毛が抜けやすい

□ 氷を無性に食べたくなる

□ 夜、脚がむずむずして眠れない

3つ以上当てはまる場合は、医師に相談し血液検査を受けることを推奨します。

結論

鉄欠乏は症状と血液検査(特にフェリチン)で診断されます。高リスクグループの方や症状がある方は、医師に相談し検査を受けてください。早期発見・早期治療により、症状は改善し、長期的な健康問題を予防できます。

参考文献